飼い主の義務

茶色の猫耳もピンとなって、2つの尻尾も心なしか長くなってきました。ぱっちりとした茶色の瞳は、無邪気で大きく可愛くて、無意識に男の子を誘惑してしまうのです。子猫の美少女、橙ちゃんは、とっても魅力的な女の子です。人間年齢に換算して、10歳の誕生日を迎えることができました。おしっこの場所はつるつるですが、ちょっとづつ、少しづつ、抜き足差し足忍び足、大人の身体に近づいています。身体が大きくなったぶん、女の子の穴も柔らかくなりつつあります。小さいからって、馬鹿にしてはいけません。橙ちゃんは、お赤飯を炊いた、立派なレディでもあるんですよ? 最近は大好きなご主人様であるらんしゃまにも会わず、長い間マヨヒガで一人暮らしをして、一人前になるための修行をしているのでした。

そんな子猫の橙ちゃんには、とっても大好きな宝物があります。女の子の秘密なのですが、あなたにだけは特別にお教えしましょう。橙ちゃんが大好きな宝物とは、なんと、なんと、女の子にしかないおしっこの場所、おまんこのことだったのです。笑ってはいけません。叱ってはいけません。橙ちゃんは本気の本気です。ここが気持ちいいと知ってから、女の子の穴が宝物に感じられるぐらい、大事に思えるようになってしまったのです。

もっと小さな頃は、またたびが一番の大好物でしたが、またたびなんてもう子供っぽくていけません。今となってはおまんこが子猫一番のおもちゃでした。こんな楽しい遊びを知ってるなんて、自分はなんてすごいんだろう。きっと特別な存在なんだ。茶色の子猫は自慢げです。妖精の女の子も、宵闇の少女も、きっと知らないに違いありません。お友達はみんなやったことがないはずです。他の子とは違って、自分は一人前なんじゃないか。一人前の印なんじゃないか。そう思えるぐらい、すごくて気持ちのいい、女の子の秘密なのです。でも、橙ちゃんがおまんこの使い方を知ったのだって、それほど前のことじゃないんですよ。それなのにこんなに自慢げなんて、橙ちゃんも案外、背伸びしたがりなんですね。

きっかけはささいなことです。人里に下りてまたたびを買おうとした時、40歳ぐらいのみすぼらしいおじさんが橙ちゃんの近くにやって来ました。つぎはぎの着物を着て、顔には無精髭が生えています。豊かな食事はしていないのでしょう。体は痩せぎすで目元には余裕がありませんでした。目元のきょろつきは、発情のためかもしれませんが……、ともあれ、このおじさんが橙ちゃんに、おまんこの使い方を教えてくれたのです。おじさんは優しそうな笑顔を浮かべながら、橙ちゃんの顔を覗き込みました。橙ちゃんはその目をじっと見ます。なんだろう? 用事かな? 猫の妖怪が珍しいのかもしれません。

「何か欲しいものがあるの?」とおじさんは言いました。マヨヒガばかりにいて人恋しかった橙ちゃんは、おじさんに話してもらったことを喜び、ひまわり畑のような笑顔で真っ直ぐに答えます。「またたびが欲しいんです。またたびが大好物なんです」。そう言ってはにかむと、おじさんは橙ちゃんの頭を撫でて、またたびを沢山買ってあげようと、申し出てくれるのでした。「おじちゃんは可愛い子供が大好きだからね」。沢山のまたたびを風呂敷に包み、橙ちゃんはほくほくです。おじさんも嬉しそうです。それだけで終われば単なる美談でしょうが、話はそこで終わりませんでした。

「少しいいかな」。「なんですか?」。そんな嬉しそうな橙ちゃんに、おじさんは申し訳無さそうな顔をして、目線を合わせながら頼むのでした。「おじちゃんと遊んでくれないかな」。「どうしてですか? 私子猫ですよ?」。「おじさんは一人で寂しいんだ。子猫でもいい。話し相手になってくれるだけでいいから……」。

橙ちゃんは優しい子です。寂しそうな顔をするおじさんを、見捨てるような子ではありませんでした。「私でよければ遊びます。まだ半人前で、らんしゃまにも認めてもらえてないんですけど……、そんな私で良ければ何でもやります」。照れ笑いをしながら、ほっぺたをぽりぽりと掻く橙ちゃんの手を、おじさんはそっと掴みました。人里の中心から離れた麦畑の向こうに、おじさんの住む一軒家があります。ぼろぼろの寂しげな家です。橙ちゃんはそこに連れ込まれ、敷かれる布団をきょとんとして見つめて、……ああ、なんということでしょう。大変です。橙ちゃんはこの日、色んな意味で、半人前ではなくなってしまったのです。

服を脱ぐように言われ、訳もわからず裸になります。布団の中に潜って、熱く固く抱き合います。男の子のでっぱりが、女の子のあなぼこに入って、ぐちゃぐちゃという変な音があばら屋に満ちていきました。西洋流に申せばセックス、本朝流に申せばまぐわい、動物流に申せば交尾、……とっても気持ちいいな。やっている遊びに、そういう名前があることを知ったのは、男の人のミルクを3回も出された後のでした。

生まれて初めて絶頂した橙ちゃんは、ビクビクと痙攣しながら、大人の遊びの名前を猫耳に入れます。その瞬間、橙ちゃんは、男の人と交尾をすることが大好きになってしまいました。気持ちよさをくれる女の子の部分も大切な宝物になりました。だってそうでしょう。女の子の穴がなければ、おじさんにじゅぽじゅぽして貰えなかったのです。この時の橙ちゃんは、男の人も気持ちよくなることを知りませんでしたから、女の子って特別なんだなと思ってしまったものでした。微笑ましいですね。

交尾にどハマリした橙ちゃんは、次の日も、また次の日も、おじさんのおうちにやってきます。そうして日暮れまで何度も何度も交尾をして、辺りが真っ暗になってから、夜目をきかせてマヨヒガに帰るのです。おやおや、一人前になるための修行はしなくて良いのでしょうか? ある意味一人前ですが、セックスだけじゃ、らんしゃまみたいな大妖怪にはなれないと思いますよ? 真面目な橙ちゃんが耽ってしまうほどに、交尾の味は甘かったのです。男の人のミルクでお腹をぽかぽかにしてもらうと、どうしてなのか、女の子として幸せな気分になってしまうのです。中年のおじさんに何度も何度もせがんで、すごい回数エッチして、そうしてとうとう、おじさんは音を上げてしまいました。人間の男は、妖怪の女の子ほど、沢山の交尾が出来なかったのです。

橙ちゃんは悲しくなりました。交尾をおあずけにされてしまったのも理由ですが、おじさんのおちんちんを疲れさせてしまったのも悲しい気持ちになった原因です。この時の橙ちゃんは、男の人も気持ちよくなるのだと知っていましたから、沢山すれば自分も気持ちいいし、おじさんも喜んでくれると素直に思っていたのでした。おじさんも始めは欲情して励んでいたのですが、悲しいかな、若いころほどの、激しい性欲がありません。毎日毎日、5回も6回もせがんだために、おじさんのたまは空っぽになり、おちんちんはひりひり痛むようになってしまいました。

このままではおじさんのおちんちんがポロリともげてしまいます。別の交尾相手を探さないといけません。でもおじさんの他に、私みたいな子猫と交尾遊びをしてくれる人がいるのかな……。それに、おじさんの時みたいに、おちんちんを傷つけてしまったら……。大好きな交尾ができなくなった橙ちゃんは、あばら屋の隅で体育座りをして、暗い気分の底に沈んでいってしまうのでした。

見かねたおじさんは、橙ちゃんに一つの提案をします。「橙ちゃんと交尾をしてくれる人を、おじさんが探してきてあげるよ」。橙ちゃんは、迷惑はかけられないと思って遠慮しようとしましたが、おじさんは笑って頭を撫でてくれるばかりです。結局橙ちゃんは、その言葉に甘えて、全てをおじさんに委ねることにしました。交尾をしてくれるような親切な人なんて、きっとほとんどいないんだろう。橙ちゃんはあまり期待していませんでした。マヨヒガに帰って次の日に、おじさんの家に向かいます。するとどうでしょう。沢山の男の人たちが、おちんちんをいきり立たせて橙ちゃんを待っていてくれたのです。両手の指どころか、両足の指を使っても、数えきることが出来ないほど、山のような男性が集まってくれたのでした。

「きみが橙ちゃんか」。「おじさんとセックスしよう」。「中出し自由ってこれマジ?」。橙ちゃんが家に近づくと、子猫の美少女に興奮したのか、橙ちゃんの周りに人だかりが出来ます。最初にセックスをしてくれたおじさんは、その人混みをかき分け、なんとか橙ちゃんをあばら屋の中に入れたのです。家の外では河童のお姉さんが、列の整理と呼び込みを行っていました。「下がって下がって、順番だよ! 絶世の妖怪美少女、一発500円、中出し自由! お代は完全先払いだよ!」。意味はよく分かりませんが、そういう思いやり全てが、とっても頼もしい物に思えてくるのでした。

こんなに来てくれるなんて……。橙ちゃんは泣いていました。もちろん、嬉し涙です。私みたいな妖怪のわがままに付き合ってくれる人が、こんなに沢山いるだなんて……。人間ってとっても親切で、優しい生き物なんだなあ。そうして親切なおじさんたちに心の底から感謝したのです。人間たちの優しい気遣いに、心がぽかぽかと温まっていきました。

こうしちゃいられません。橙ちゃんは興奮して鼻をふんふんとさせています。セックスが出来なかった昨日のぶん、橙ちゃんは思う存分、男の人との交尾を楽しんだのでした。そうして浮かんだ満面の笑みは、親代わりのらんしゃまでさえ見たことがないぐらい、最高に嬉しそうで、楽しげなものでした。どぷんどぷん、どぴゅどぴゅ。沢山のミルクが子猫の中に注ぎ込まれていきます。ミルクは子猫の大好物です。あればあるほど、おまんこが嬉しくなります。ミルクを注ぎ込んだ男の人は、おじさんの用意した箱のなかに、500円玉をぽとぽとと支払っていきました。

幻想郷の500円はそれなりの大金です。橙ちゃんの身体は、それだけのお金を支払っても惜しくないほど、気持ちいい作りをしていたのでした。幻想郷には妖怪の美女や美少女が山のようにいますが、無責任中出し交尾をされて喜んじゃうほど無知でエッチな妖怪っ娘なんて、そうそういるものではありません。そのうえ、貨幣一枚で股を開くとなれば、そんな子猫はもう橙ちゃんしかいないのです。

お客さんは途絶えません。お金もどんどん増えていきます。売上は高まる一方ですが、無欲な橙ちゃんは、そのお金を全部おじさんにあげることにしました。セックスを教えてもらったお礼と、男の人を集めてもらったお礼です。親切にしてもらったらお礼をしなさいと、らんしゃまにも教えてもらっていました。それに、この時の橙ちゃんは、おちんちんだけあれば幸せになれるほど、エッチな女の子に成長してしまっていたのです。ごはんはおじさんが用意してくれますし、必要があれば色々買ってくれましたから、お金にはほとんど必要ありませんでした。

おじさんのあばら屋はだんだんと綺麗になり、家具も揃い、食事も豪華になり、しまいには家を建て替えて、そこそこ立派な屋敷が立つことになりました。側の畑は枯山水になり、西洋風のプールまで併設されています。いかにも貧乏そうだった農夫のおじさんは、でっぷりと肥えるほど暮らしに恵まれ、商店経営で貨殖に励んで、更に財産を蓄えていったのでした。

しかしそれも、長くは続きません。美味しいミルクも、実は子猫には毒になってしまうのです。沢山中出しされたおまんこは、注入される精子に耐え切れなくなり、とうとう卵子も陥落して、妊娠してしまったのです。子宮で赤ちゃんが大きくなり、橙ちゃんのお腹も膨らんできました。食べ物がよくなっていたので、最初はちょっと太ったのかなと気楽に構えていた橙ちゃんですか、お腹だけがどんどん大きくなるので、病気じゃないかと心配になります。

なんでお腹が大きくなるの? 交尾が赤ちゃん作りのためのものだなんて、橙ちゃんは知りません。自分が妊娠しているだなんて、思うはずがありませんでした。だってそうでしょう? 見かけた妊婦さんは、どんなに若くても、橙ちゃんよりずっとお姉さんでした。半人前の子猫の自分が、赤ちゃんを授かるなんて微塵も思わなかったんです。おじさんに相談しても、大丈夫だと言うばかりで、真面目に相手にしてくれません。もっともっと交尾をするようにと、いつものように言われただけです。そのうちに、お腹はさらに膨らんで、とんとんと中から蹴ってくるようになりました。

中になにかいる! 橙ちゃんは怖くなりました。大きな寄生虫がうにょうにょしている様子や、怖いおばけがお腹に住んでいる様子が、橙ちゃんの頭のなかに浮かんでくるのです。ここは不思議な幻想郷、何が起こるか分かりません。エイリアンがお腹を破って、突然出てくるかもしれないのです。大丈夫だというおじさんの言葉を信じて、しばらくはそのままにしていましたが、動くお腹が怖くなって、悩んで悩んで、臨月間近になって、ようやくらんしゃまに相談することにしたのでした。どうして早く相談しなかったのかって? 橙ちゃんの夢は一人前の式になることです。らんしゃまに相談するのは、最後の手段だと決めていたのです。

早く一人前になりたい。そう思って、らんしゃまには、出来るだけ頼らないように決めていました。そうしてずっと、一人で頑張ってきましたが、幼い子猫にはもう限界のようです。らんしゃまに会うのは久しぶりのことでした。本当は一人前になってから、胸を張って会うつもりだったのに……。でも、らんしゃまなら、きっと答えをくれるはずです。橙ちゃんのご主人様は、半人前の子猫と違い、とっても頭が良くて知識も深いのです。橙ちゃんを襲うおなかふくらみ病も、らんしゃまならきっと原因が分かるはずです。

八雲亭に飛んできて、そっと玄関を開けます。おうちに帰ってきた橙ちゃんは、半人前のままの恥ずかしさのためか、申し訳なさそうで帰宅を知らせるのでした。「ただいま、ゆかりしゃま、らんしゃま」。何たる偶然、ご主人様のらんしゃまは、八雲亭内部で公務中だったのです。「その声は橙! おかえり、橙! 本当に久しぶりだね! 大きくなったかな?」。愛しい式の帰りが嬉しくてたまらないのか、屋敷の奥から軽やかに走ってきます。黄金色の毛髪輝く九尾の美女は、子供の帰りを待ちわびる母親の顔で、にこやかに微笑みながら現れたのでした。

しかし、その笑顔も、橙ちゃんのお腹を見るまででした。心が高ぶったらんしゃまが、ずんずんと橙ちゃんに近づいて、みょうな膨らみに気づき、真っ青になります。「橙、それは、何の冗談かな……?」。橙ちゃんはらんしゃまを見上げて言いました。「お久しぶりです、らんしゃま。それが冗談じゃないんです。何でか分からないんですけど、お腹が大きくなっちゃったんです。らんしゃまなら何か分かるかと思って……」。そうして、膨らんだお腹が本物であることを、服をめくりあげて示すのです。膨れた子猫のお腹には、赤紫の妊娠線が走っていました。「何かの病気ですか……?」。

「ふざけるな!」。気が動転したらんしゃまは、言葉も与えないまま、子猫の右頬を思い切りビンタしてしまったのです。「らんしゃま? どうして、ぶつんですか……?」。橙ちゃんはなんでぶたれたのかも分からず、困惑したままらんしゃまを見上げました。何か大変なことをしてしまったようです。もしかして、もう、何もかもが手遅れなのでしょうか? ドキドキしながら、ご主人様の目を見ると……、麦畑を思われるような鮮やかな瞳は、涙でびしょびしょに濡れていたのでした。「らんしゃま……?」。らんしゃまの涙なんて初めて見ました。「私のせいだ。私が橙を自由にしたから……」。らんしゃまはそうつぶやき、今度は冷たい目で橙ちゃんの眼を覗きます。奥から発せられる呪いの邪眼が、うつらうつらと橙ちゃんの意識を奪い、お腹を抱えた子猫は、そのまま玄関で眠りこけてしまったのでした。

どうなる橙ちゃん! ここは産廃だぞ! ヤンデレと化したらんしゃまが、橙ちゃんと心中してしまうことも、あるいはありえることでした。しかしご安心を。らんしゃまは橙ちゃんを抱え、真っ直ぐに病院に向かったのでした。橙ちゃんの病気を治すために。飼い主の義務を果たすために……。

橙ちゃんが目を覚ましたのは診療所の一室でした。西洋式の白いベッド、腕には点滴、白い和服で体は覆われています。ベッドの周りは白いカーテンで覆われ、橙ちゃんの寝顔を視線から守ってくれていたのでした。ここまで設備が整っているのは、オーパーツ的医療機関であるところの、永遠亭のほかにないのでしょう。橙ちゃんはうっすらと瞳を開き、辺りをきょろきょろと見回して、そのように思ったのでした。一年半ほど前に大きな熱を出して、らんしゃまに連れて行ってもらったことがあります。だから橙ちゃんにも、永遠亭の内装が分かりました。

おへその下あたりが軽く痛みます。しかし、ぽっこり膨れていたお腹はすっとへこみ、細っこい子猫のウエストが取り戻されていたのでした。やっぱり病気だったんだ。橙ちゃんはほっとします。永遠亭の院長先生か、おっちょこちょいな月兎のお姉さんが、手間暇かけて治してくれたに違いありません。後でお礼を言っておこう。ここまで連れてきてくれたらんしゃまにも……。ベストタイミング。そう思った瞬間、月兎のお姉さんことうどんげと、ご主人様のらんしゃまが、一緒になってカーテンを開けて、ベッドの側にやってきたのです。らんしゃまは言います。「橙の病気は治ったよ」。橙ちゃんは言います。「はい。ありがとうございます、らんしゃま!」。

うどんげお姉さんは申し訳さなそうな顔をして、橙ちゃんの側にやってきます。肩をがくがくと震わせながら、そうしてぽつりと言うのです。「勝手に手術してごめんなさい。でも、あなたみたいな子供には早すぎると思うし、飼い主さんのお願いだから、だから……」。うどんげお姉さんは真っ青になって、早口でそう言いました。「本当にごめんなさい……。取り返しのつかないことを……」。赤い瞳に涙も滲んでいます。何かショッキングなものを見てしまったのでしょう。橙ちゃんは首を傾げながら、お姉さんをいたわります。「お姉さん、具合悪いんですか?」。「いえ、そうじゃなくて……。どうしてお腹が大きくなったか、あなたは分かってないの?」。「……? よくわかりません。私、お医者さんじゃないから……」。うどんげお姉さんはなにか言いたげな顔をして、口をもごもごさせましたが、そのままうつむいて黙ってしまうのでした。

「そんなことはいいんだ。橙は一生知らなくていいことなんだ」。らんしゃまは笑顔になって言います。「橙の病気は治したよ。もう二度と、同じ間違いは起こらない。何十年経っても、何百年経っても」。らんしゃまはそう言って、橙ちゃんを抱きしめてくれます。らんしゃま不在の寂しさがそうしてほどけていきました。久々にご主人様に抱きしめてもらって、心がぽかぽかと温まっていきます。大好きならんしゃまに抱きしめてもらって、柔らかな身体をぎゅっと抱き返して、自分はまだまだ子猫なんだなあと、ぬくもりの間で感じてしまうのでした。

にがいお薬を飲んだり、血圧を測ったり、新鮮な入院生活は一週間ほどで終わりを告げました。おへその下の切開跡は、もうほとんど痛んでいません。隊員の日には、ゆかりしゃまとらんしゃまが一緒に来て、子猫が元通りになったことを祝ってくれるのでした。

橙ちゃんはマヨヒガを離れ、らんしゃまの元でお手伝いをすることになりました。半人前のままでいい。橙にはまだまだ私が必要だろう。一緒に暮らそう。側に居てくれるだけで嬉しい。橙ちゃんは、らんしゃまにそう言われて、素直にその通りにするのでした。本当は早く一人前になりたいのですが、急がばまわれという言葉もあります。らんしゃまの背中を見ながら、少しづつ大きくなっていけば良いのでしょう。

不思議なことに、お腹の腫れを治してもらった日から、おまんこへの関心がなくなってしまいました。おまたから血が出ることもなくなってしまいました。おちんちんとか、交尾とか、橙ちゃんを幸せにしてくれたものが、どうでも良いもののように感じられるようになってしまったのです。あの快感を再現しようと思って、女の子のお大事を触ってみるのですが、前ほど気持ちよくなくて、すぐに飽きてしまいました。

しばらくして、久しぶりに、おじさんに会ってみようと思いました。そうして数ヶ月ぶりに、人里に降りてきた橙ちゃんです。しかし、これまた不思議なことに、おじさんの痕跡は跡形もなく消えてしまっていたのです。経営していた商店は人手にわたっていて、人里はずれにあったおじさんの屋敷も、雑草一本ない更地になってしまっていたのです。おじさんの名前を出して、町の人に訪ねてみますが、どの人も青い顔をして足早に去っていくだけなのです。一人だけ、言葉を返してくれた人がいました。「ああ、やめろ、やめろやめろ、やめろぉ、そっ、そいつの名前は出さないでくれ! 俺は関係ない! 関係ないんだ! やめろ、やめろ! う、うわぁ、うわあああ!!」。そうしてその人は、恐ろしいものを思い出してしまったかのようにふらついて、崩れて、道端で嘔吐し始めたのでした。

おじさんに会うどころか、痕跡さえ見当たらないのです。こうなってはいよいよ、実在さえ怪しくなってきます。橙ちゃんは首をかしげながら、色々な可能性を考えます。そうして、ちっちゃな両手をぱんと合わせ、可愛い可能性を導き出すのでした。

化けたぬきさんのいたずらに、ころりと騙されちゃったんだ。なーるほど。これは名推理です。

おしっこをする穴に、おしっこをする棒を挿れるなんて、考えれば考えるほど、おかしなことのように思えてきます。そのうえ、それで気持ちよくなるなんて、本当に本当におかしなことです。だって、今の橙ちゃんは、おちんちんのことを想像しても、おまたを触ってみても、全然気持ちよくなることができないんです。思い出しても、嘘のような気持ちよさでした。夢心地で……。だからきっと嘘なんです。化けたぬきさんに化かされていたと考えても、不思議な不思議な幻想郷では、つじつまが合ってしまうのでしょう。

なーんだ。そうだったんだ。

橙ちゃんは、そうしてようやく納得して、人里の街路を歩き始めます。化けたぬきさんのいたずらに全然気づかなかったなんて……、それも一年も! なんだか恥ずかしくなって、顔が真っ赤になってしまいました。らんしゃまが心配するのも当たり前だ。そんないたずらも見抜けないなんて、私ってまだまだ、半人前なんだなあ。マヨヒガでの一人暮らしを始める前に、一人前になるなんて大見得を切った自分が、とてもとても恥ずかしくてたまらなくなってしまうのでした。

そうだ、ついてに、またたびを買おう。ポケットの中から、らんしゃまから貰ったお小遣いを取り出します。私はまだ子猫でいいんだ。お小遣いももらっちゃう。そうして橙ちゃんはお店に入り、またたびを一袋購入するのでした。なぜってもう、当たり前じゃないですか。またたびは子猫の一番の大好物だからです。橙ちゃんの大好物はまたたびなんです。今も昔も、未来永劫、一生またたびが大好物なのです。一袋のまたたびを買うと、橙ちゃんはほくほく顔になり、らんしゃまとゆかりしゃまの待つおうちに、子猫らしく帰っていくのでした。

めでたし、めでたし。
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